香港STYLE Vol.76 香港人の香港 (2019.06.16)

歴史香港スタイル

香港からこんにちは

香港政府が推し進めようと、今年の春頃から頻繁にニュースにもなっていた、香港の『逃亡犯条例』改正案。 

もしこの条例が香港立法会で可決されれば、香港で容疑者として身柄が拘束された者は (それが外国人であっても)、中国本土に引き渡すことが可能になるという法案です。  

1週間前の日曜日には、香港市民7人に1人という約103万人が、シンボルの白いTシャツを着て、香港中心部で紳士的な改正案反対デモを行いました

週半ば12日には、予定していた立法会の改正案審議を阻止するため、今度は、皆が怒りを表す黒いシャツを着て、主に学生を中心とした民主派と香港警察が、警察庁や立法会のある官庁街 Admiralty と 金融街 Central で激しい衝突

正面に見える、下部がくびれた不思議な形をしたビルが、中国人民解放軍駐香港部隊ビル。 その右奥に見えるグレーのガラス張りの大きなビルが、香港特別行政区政府ビルです。

 

香港人だけでなく、日本や日本人にも直間接的に関係がある得るかもしれないこの法案改正に対し、日本ではインターネットニュースで見ることは多少あっても、先週のデモ当初、テレビのニュースではほとんど報道されていなかったそうで、非常に驚きました。

 

15日になって香港政府は、立法会での条例案改正審議を延期、年内の審議入りはなしと発表。 

ですが、それはまるで、牙を剥いたライオンがその牙を一旦引っ込め、着実に確実に獲物を包囲し捕獲のチャンスを狙い、そしてその時が来たら一気に畳み掛ける、、、そんな野生動物界を想像させます。

香港が大国に翻弄される運命は、イギリスに割譲されたあの時に、もしかしたら既に決まっていたのかもしれません。

しかし、そもそも返還される対象が租借契約時の清朝ではないのですから、今の中国が正式な後継受け入れ国家というには、香港人のDNAが受け付けられないのは当然といえば当然でしょう。

返還は、本来ならば香港人の意思により、帰属の在り方が決められればよかったのでしょうが、植民地帝国主義思想の英国政府がそんな民主的なことをするはずもなく、中国との返還交渉では、当の香港市民の声は完全に蚊帳の外。 英国と中国の国益合戦となったのです。

 

時代は流れるとはいえ、英国は最後の最後まで白々しく、本当に罪なことをしたものです。

本土の共産主義体制を逃れて港に移ったものの、現代中国史のあの混乱の記憶もまだ生々しかった1997年返還時には、それができる環境にあった人の多くは香港を離れ、海外に移住。 その後、外国の市民権を得て、仕事などの理由で再び香港に戻ったとしても、多重国籍を保持しています。

 

時代に翻弄され続けながらも、強く生きる香港人は、よく彼らのスピードと行動力がフォーカスされますが、それは、深い思考があってなおのスピードと行動力。

運命のサバイバーとしての最強頭脳の要素を持ち合わせていると、私は日々香港人と付き合う中で素直にそう思い、彼らを尊敬するのです。 

いつの時代にもどの世界にも存在する、権力の横暴や理不尽といったものに翻弄されながらも、香港人の知恵と意志と行動力はDNAに受け継がれ、お節介なほど助け合い精神の親や家族、社会を身近に見て育つ環境が、強いだけでなく温かい人間を作り、それに、もしかしたら、広東語という世界で最も難儀な言語を操る一種の勘の良さが、どんな状況になっても最適な判断を選び出す彼らの直感力に磨きをかける、、、と言ったら、考えすぎでしょうか。。。

 

いずれにしても、私の知る周りの香港人の、のびのびとしながらも大局的な教養の高さは、運命からのサバイバーならではのような気がしてなりません。

大局観という教養は、例えば、東大に入ることだけが目的になってしまっているような狭い価値観や勉強では、身につきにくいでしょう。

日本は豊かになり過ぎたがゆえなのか、いつのまにか自分の頭で考える、人間の最も尊い才能の一つを放棄してしまったようにも思えるのです。

 

正しく主張をするとはどういうことか、という訓練もされないまま、単一民族同士で過度に忖度する習慣だけが変化できずに残り、そんな日本の一面を、国内外からの視点で長らく見ていると、とても複雑な気持ちになるのです。

ほんの数十年前まで、豊かでなかったどころか、慣れ親しんだ住む土地を捨ててまで、身一つで新しい土地でスタートする試練を覚悟で、それでも、言論と表現の自由な社会で生きることを選んだ香港人たち。  彼らには、どんな過酷な状況でも決して放棄しなかった、深い思考があるのです。

 

香港人がよくお守りとして身につけている、翡翠。 深くまろやかな翠色は、彼らの強さと優しさををそのまま表しているようで、本当に魅力的です。

ルビーのように、エネルギッシュでダイナミックで、情熱的なところも、香港人の魅力。  

これは長い付き合いをしないとなかなか見えてはきませんが、普段底抜けに明るく強い香港人の彼らには、ふとした一瞬に見せる、影のようなものがあるように感じるのです。 それが、極上のルビーの中に見られる、色の陰影とも似ていて、こんな魅力的なルビーを見ると、つい香港人を思い出します。

 

凛とした輝きと主張をもって、困難にも毅然と立ち向かう香港人の意志の力強さは、まさにダイヤモンドのよう。

おかしいこと思うことを、おかしいときちんと主張する、そんな、清さと潔さとキレの良さを持つ香港人。 それは、地球上で最も硬い鉱物である、ダイヤモンドが持つ高貴な輝きと同じような気がするのです。

 

香港人の中の香港精神は、彼らがどんな状況下になっても、翡翠のように、ルビーのように、そしてダイヤモンドのように、世代を超えて永遠に受け継がれていくのでしょう。

JUN

 

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