香港STYLE Vol.68 知を生み出すための知 (2019.04.20)

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香港からこんにちは

人としての魅力は様々にあると思いますが、振り幅の大きさをその人から感じるとき、国籍やジェンダーは関係なく、エレガントだなと私は思います。 

最初から、それはダメと決めつけることや、自分の価値基準が全てと思う奢り、異なる価値観や考えの拒絶、一つのロールモデルを押し付けること、無言の同調圧力、問題の根本的対峙からの逃げ、、、などが横行する、個に対して未熟な社会は、人や創造の流れを止め、社会の繁栄は望めないでしょう。 それが日本でないことを、日々祈っていた矢先。。。

先日話題にもなりましたね、上野千鶴子氏の東京大学入学式での祝辞。

大学入学式というハレの日の祝辞の多くが、上辺の綺麗ごとを並べただけの当たり障りのないものになりがちな中、氏の率直なスピーチは、私には何百倍何千倍も心に響き、泣きそうになったくらいでした。

国立大学という中では、大学同士や学内での派閥ももちろんあるでしょう。 また、かつては (今もですが) 別名、霞ヶ関官僚養成大学と揶揄されるほどの東大ですから、政界や大企業の中枢権力とのパイプも強く、複雑な持ちつ持たれつや後ろ盾が横行する教授会の都合もあるでしょう。

そんな中、新学生に送る祝辞としては、建前に徹すること、そして建前に徹することのできる祝辞の人選や内容が慣例だったかもしれません。

多方面で影響力のある教授が揃う東大の入学式。 ある意味、メディアにも注目されるあの場で、保身に走ることなく、真摯に学生を思い、日本の未来を思いスピーチをした氏と、それを述べさせる大学のあり方に私は敬意を表すると共に、逆に言えばそれだけ、ガラパコス化した日本の危機的現状の表れでもあると思っています。

女性やLGBTの活躍の場を無意識に奪う社会のジェンダー差別、今日本が最も必要としている多様性と国際性への対応力、弱者が弱者のまま尊重され尊厳を保てる社会の寛容さ、選ばれし恵まれし者として周囲への感謝と理解そして社会への還元、特権性の無意味さ、正解のない広い世界を前に『知を生み出すための知』を身につけることの大切さ、、、など、大変深いメッセージを学生に投げかけた上野千鶴子氏。

ー引用ー

『あなた達の頑張りを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。

恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれない人々を貶めるためにではなく、そういう人々を助けるために使ってください。』

ー引用終了ー

そして、こうも続けられました。

ー引用ー

『未知を求めて、よその世界にも飛び出してください。 異文化を怖れる必要はありません。 人間が生きているところでなら、どこでも生きていけます。 

あなた方には、東大ブランドがまったく通用しない世界でも、どんな環境でも、どんな世界でも、たとえ難民になってでも、生きていける知を身につけてもらいたい。

大学で学ぶ価値とは、すでにある知を身につけることではなく、これまで誰も見たことのない知を生み出すための知を身に付けることだと、わたしは確信しています。』

ー引用終了ー

 

私は、東大とは縁のない人生でしたが、もし、自分が若い東大生としてあの場にいたら、また卒業生OGなどとして氏の祝辞を聞いていたら、思わず泣いてしまったかもしれません。  

入学式という人生の岐路の早い時期にあのようなエールを贈られたことはきっと、学生達の人生の指標となり、財産となることでしょう。

と同時に、このような名スピーチができる社会や大学が、今の日本に確実に育っていることに勇気付けられ、氏がこれまで辿ってこられた道の険しさにも思いを馳せるのです。

世界大学ランキングでも常にトップの イギリス Oxbridge (Oxford University  と Cambridge University を同時に言う場合の略) や、理数医学系 の最高峰 London Imperial College などイギリスの大学は、優秀であればあるほど、氏の主旨とするようなことは言わずもがな、、、というところも、実はあります。

大学 も教授 も学生も、そして社会も、ノブレスオブリージュの精神は、息をするのと同じような感覚で浸透していますし、その辺がやはりイギリスは成熟社会であり、まぁここ最近、一部の国会議員が世界中にイギリスの恥さらしをしているとしか思えない、 議会のBREXIT 騒動はありますが、それでも、長い時間軸で追及する学問や知といったイギリス社会の成熟した価値観は、アジアでは香港よりどこよりも、日本が最もヨーロッパ社会に近い成熟した精神性と民族的素質を本来持っているのでは、、、という気が、両方をくまなく見ている私はしています。

氏の祝辞で最後の部分、『大学で学ぶ価値とは、すでにある知を身に付けることではなく、これまで誰も見たことのない知を生み出すための知を身に付けること』

この一文に、氏が言わんとしていることが凝縮されているような気がします。

そして、東大生だけでなく、日本の大学生、次世代を担う若者への真摯なメッセージが込められていると思うのです。

 

日本と日本の若者に幸あれ、と香港から願わずにはいられません

JUN

 

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