香港からこんにちは
「商人治港」
香港を語る時、これほど街の本質を言い当てている表現はないような気がします。
紅茶貿易とは表向き、英系商社「東インド会社」による中国へのアヘン貿易に端を発したアヘン戦争。 からの香港割譲、そして植民地統治。
支配層が全てという植民地経済のもと、長い間香港で、莫大な権益独占という蜜を吸い続けてきたのは、当然のごとく英系資本でした。
この金城鉄壁のような植民地経済構造の力関係に、地殻変動が起こり始めたのが1960年代。
それからほぼ一世代で、香港を世界の巨大金融都市へと変貌させる核となったのが、のちの香港財閥となる地場系の華人資本でした。
代表的なものが、長江實業 (Cheung Kong Holdings)、新鴻基地產 (Sun Hung Kai Properties)、恒基兆業 (Henderson Land)、新世界発展 (New World Development) の四財閥。
今では Forbes世界華人長者番付でも、常にトップ10が香港財閥と関連の香港企業に占められており、彼らの保有資産は、小国の国家予算にも匹敵するほどとも言われています。
香港大財閥のルーツとなった華人資本のスタートは、満州事変や日中戦争の戦火を避け、また第二次世界大戦後の中国共産化を嫌い、英国の統治領だった香港に逃げてきた人達による、いずれにしても小さな街の商売でした。
香港政府のトップである行政長官よりも重要視され、中国中央政府の首脳から「たとえ短い時間でも構わない、あなたと是非ともお会いしたい」と面会を熱望され、また、中央政府主催の式典では党幹部らが並ぶひな壇に、財界人としては異例の席が設けられるほどの、巨大金融市場香港だけでなく中央政府とも強いパイプを持ち、アジア経済に君臨し続けてきた華人資本の人物がいます。
アジア最大のコングロマリット「長江和記實業 (Cheung Kong Hutchison Holdings Limited) 」の創業者兼会長、
李嘉誠 (Li Ka Shing) 氏
(左。 右は長男の Victor Li氏)
今年の3月、自身の90歳の誕生日目前の5月で、長江實業グループ会長職を引退することを表明した李嘉誠氏。
アジア経済だけでなく世界からも注目されたこの引退表明は、彼の引退会見を見ていても、何かこう、時代の節目を感じるような、、、と同時に、香港と香港人のパワーを改めて感じた、不思議な気持ちになりました。
「私は13歳からずっと、休まず働いてきました。 少し長すぎたかもしれませんね。」と冗談交じりに記者に話す李嘉誠氏は、清々しささえあれど未練や心残りなど微塵も見られない、自らが自分はまっすぐな性格と評するような、ここぞのチャンスは必ず掴んできた人特有の、潔いすっきりとした引退会見でした。
氏の後任は、帝王学を受けた長男の李沢鉅 (Victor Li) 氏が、長江實業と Hutchison Whampoa グループ全てを管理する会長職を引き継ぎ、次男の李沢楷 (Richard Li) 氏は、それ以外の新しいグループ内ビジネスを100%保有するという形で落ち着いた、李嘉誠氏の会長職引退。
話は変わりますが、私が香港に住んでいた幼少期、両親が最も仲良くして今でも変わらぬ交友が続いている、香港人の親友がいます。
私のことも生まれた時から知っており、イギリス在住中にも何かにつけ親身になってくれたりと、聡明で美人な彼女は、子供の頃から私にとって尊敬する叔母さまのような、大きな存在でした。
そして私が密かに、彼女こそが「真の香港マダム」と、今でも憧れるている存在です。
そんな彼女が若かりし頃、“30歳前にして一生働かずとも家族を養えるほどに成功した” アジア一の大財閥の総裁、李嘉誠氏の私設秘書であり、それが当時の華人社会でおよそ何を意味するものなのか、ハタチそこそこの小娘の私などには、知る由もありませんでした。
しかし、彼女の一瞬哀しげな影のある聡明さと知性と気遣いと、どんな大女優をも圧倒する美しさとオーラに、なにか、小娘の私などが気軽に踏み込んではいけないような大人の世界を彼女に感じていたのも確かで、のちに、実は彼女は、李嘉誠氏に熱烈な寵愛を受けていた特別な女性だったと両親から聞いて、変な話ですが、ホッと安堵するような不思議な感覚になったのを覚えています。
香港の激動の歴史とも重なる象徴的存在でありアジアの巨龍、李嘉誠氏の人物史と、彼女以上の香港マダムはいないだろうと明言できるほど、私の尊敬と憧れの対象であり続ける彼女の波乱万丈の人生。
この雨霖鈴曲なまでの秘められた接点がまた、私の中で香港という街の厚みとなり、特別な場所になっているような気がするのです。
皆様、今年も大変お世話になりました。 2019年も、健康で実りある素晴らしい年になりますように!
どうぞ良いお年をお迎えください🎍🥂
JUN