香港からこんにちは
先日スイスのジュネーヴで行われた、Christie’s のジュエリー・オークション Magnificent Jewels。
世界中の顧客から集められた300点以上の壮麗な宝飾品やジュエリーが競売にかけられ、アートとビジネスが融合した、エキサイティングな一夜となりました。
その夜のスターセールの一つが、18.96ctの大粒ファンシー・ヴィヴィッド・ピンクダイヤモンド The Winston Pink Legacy 。
キャラット単位 260万ドル (約3億円) という、ピンクダイヤモンドについた per carrat 価格としては世界最高額を記録し、オークション会場が大きな賞賛の拍手に包まれました。
ジュエリーオークションの中で最も格の高いMagnificent Jewels 。 競売にかけられる作品はすべて、世界的に希少価値のあるものばかりです。
国宝にも匹敵するほどのミュージアムクラス・ピースが、次々と入札され落札されていくのがジュエリーオークション。
オークションには、「オークション・カタログ」という、出品される作品全てを紹介した分厚い本が、オークションの数ヶ月前に必ず発行されます。
カタログには、ロット番号順に出品作品の写真、詳細と説明、そして落札予想価格が記載されます。
どうかすると、その辺の美術書などより、よほど詳しく分かりやすく書かれている、と私は思っているオークション・カタログ。
なにせ、オークションハウスを支える各分野の「スペシャリスト」と呼ばれる、超マニアックなオタク集団、、、いや (笑)、専門家集団が作るカタログです。
オークションハウスの「スペシャリスト」。 美術市場でこれほど頼りになる人達はいないと私は思っていますし、はっきり言って、気難しいどこかの西洋美術史の教授が書いた、使えないウンチクだらけの美術書などより、よっぽど読んで楽しく見て楽しく為になる、、と個人的に本気で思っているのが、オークション・カタログです。
そしてなにより、カタログに載る100年200年、もによっては数百年という歴史を持つ国宝級の出品作品が、美術館に鎮座し有り難がられることなどなく、時代を超えて人の手から手へ、市場を介し世俗にまみれ流通してきたという、なんともダイナミックな事実。
そしてこれからも所有者を変えて市場へ流通し、歴史を刻みながら生き続けるであろうという事実が、作品にある種の現役感と生命感を与え、それが見る者を魅了するのかもしれません。
さて、オークション・カタログに必ず明記してあるのが、落札予想価格。
入札者が入札価格の目安とできるように、オークションハウスのスペシャリスト達が付けるもので、入札スタートは通常、予想落札価格の最低ラインから始まります。
実はこの落札予想価格、1970年代まではオークション・カタログには一切載っていませんでした。
どういうことかと言うと、つまり、作品の価値を自分で判断できない人間はオークションの参加資格なし、ということ。
オークション発祥があのお国と聞けば、妙に納得 (?!) のちょっぴり高飛車な、、、いや、高貴なお話、、、でしょうか。笑
しかし、それではマーケットが広がらないから、カタログに価格を載せてはどうかという提案が、当時出たそうです。
が、またそこからが大変。 価格を明記するなどとは美術作品への冒涜である、との大議論に発展!
結局、ロット番号の横に価格を記したリストを作成し、カタログに折り込みで入れるという方法で決着。 その後も少しずつ改良を重ねながら、現在のスタイルでのオークション・カタログが出来上がったのです。
それでも、真のコレクターは必ず、現物を見てから入札を決めます。
ジュエリーや美術品は大きな買い物であり、そのために、オークションハイライトの作品を、コレクターが多くいる都市に回し、プレビューを開くのです。
プレビューでは、どこそこのジュエリーアートディーラーが Van Cleef & Arpels 1924年製のロングネックレスを熱心に見ていたとか、ある有名コレクターが、ガラスケースから出してもらった JAR のブローチの裏側を、ルーペで丹念に見ていたとか、そういった話からスペシャリスト達内で落札価格が予想されることもあるそうです。
オークション・プレビューで出会う様々なストーリーを持つ宝石たち。
それらは現在進行形の生きたアートであり、そこで手に取ったジュエリーが、私に多くのことを語りかけ、精神的な富とは何かを実感させてくれるのような気がするのです。
JUN